このレンズに関しては伝えたいことがありすぎる。
現代のレンズは「普通に良い」ものがほとんど。だから描写のような定性ではなく、開放F値や重量など定量的な指標のレビューが多いように感じる。一定レベルは十分に満たす写り、要は没個性な描写なのだ。
一方でMS-Opticsの描写はまさに個性的。収差との闘いを繰り広げていたオールドレンズのような現代レンズだ。
そして個性的なのは描写だけではない。大きさも最大の特徴のひとつだ。この辺をこの記事では掘り下げていきたい。
同型の販売が見つからなかったため、近いスペックのもののリンクを掲載する。
理系男子によるコスパ算出
大手メーカー勤務の筆者が、その経験をもとに製品の本当のコストパフォーマンスを評価するコーナー
価格の手頃感 | |
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生活への影響度 | |
長く使えるか | |
スペックに現れない価値 | |
所有する高揚感 |
総合コスパ:
ハンドメイドの少量生産なのでコスパを求めるのは無粋
>同じコスパ評価の製品一覧
「価格の手頃感」、「生活への影響度」が高ければ高いほどコスパも高くなり、逆に「スペックに現れない価値」が高くなるとコスパは低くなります。なお「所有する高揚感」はコスパ算出の対象外。
知る人ぞ知るMS-Opticsについて
一部の界隈ではよく耳にするが、現代のカメラ雑誌などで紹介されることはほとんどない不思議なレンズメーカー・MS-OpticsがApoqualia-III 2/2.8を製造している。
MS-Opticsは宮崎貞安氏個人による設計・製造のメーカーなのだ。少量生産はもちろん、微調整も宮崎氏に直接電話で相談する。伝統的なレンズ構成を宮崎氏が再解釈し、より明るく、より軽量なレンズを展開しているのが特徴だ。
現在はLeica Mマウント互換のレンズのみのラインナップになる。
大口径なのにボディキャップのような大きさ
28mmでF2といえばそこそこ大きくなるのが常。しかしApoqualia 2/28は片手の手のひらに収まるくらいのサイズなのだ。防湿庫の中でも「あ、君そんなところにいたの」という感じ。
ほとんどボディキャップ。本当に撮像素子から28mmの距離にレンズがあるだけ、のよう。実際はクラシカルな4群6枚のダブルガウスだけれど。50mmをカメラにつけて、ポケットにはApoqualia 2/28。この組み合わせ、最高じゃない?
操作性は大いに犠牲になっている
小ささとのトレードオフで、操作性は犠牲になっている。まずは絞り。
Elmarのように前玉の周囲の銘板を爪で引っ掛けて回して絞りを操作する。操作性が悪いのは想像に難くない。少し間違えると前玉を触ってしまうし、絞るにつれて1段の間隔が狭くなるので、f/5.6〜16はもう曖昧だ。無段階なので正確な絞り値を設定できない。
絞り優先AEを使えるデジカメならいいものの、露出計のないフィルムカメラだと困るかも。
そしてヘリコイドも同じだ。詳しい話は割愛するが、通常の距離計連動のレンズはダブルヘリコイド/平行カムなのに対し、Apoqualia 2/28はシングルヘリコイド/傾斜カムになっている。
これの何がいけないかというと、距離計とのマッチングだ。はじめに断っておくと実用上は問題がない。無限遠で二重像が微妙に合わなかったり、0.8m未満の距離計連動外では逆方向に二重像が動いたりする。
ミラーレスでの使用なら全く気にならない部分ではあるが。
でも小さいは正義
Leica M10-Rに装着してみた。Leica M10-Rのレビュー記事は以下
>Leica M10-Rレビュー|レンジファインダーと高画素機の意外な相性
いろいろ無理を感じる設計ではあるものの、それでも小さいのは正義。M型のカメラボディにつければAPS-Cコンデジのようなサイズ感になる。
他のレンズメーカーには到底できない割り切りによって、信じられないほどの小ささを実現しているのだから、多少の操作性の悪さはご愛嬌だ。
特徴的な描写を作例とともに解説
Apoqualia 2/28の描写は非常にクセが強い。雑多なカメラロールの中でこのレンズで撮った写真はすぐに判別できるほど。
- 開放で滲む、湿度を帯びた描写
- 指で擦ったような周辺の暴れ具合
- サジタルコマフレア
- 開放では気になるレベルの像面歪曲
描写の特徴の多くは愛すべきものではあるが、特に注意が必要な特徴もある。それは像面歪曲だ。中央がやや前ピン、周辺部が大きく後ピンになっている。
レンジファインダーで中央のピントを合わせたつもりがやや緩いのが、使い始めはどうしても気になった。手放してしまおうか迷ったくらいだ。しかし使い込むうちに、どうやって使いこなすかを考える方が楽しくなってしまい、今に至る。
周辺は後ピンなので隅の背景が急にはっきりしてくる、というなんとも不思議な描写になる。これは時空が歪んでいるみたいで好き。
ちなみにタル型や糸巻き型のような歪曲収差は気にならないレベル。像面歪曲(ピント面が平面にならない)なので注意してほしい。
球面収差は人肌にわずかなフレアを纏わせ、絹のように美しく描写してくれる。ただし周辺は描写も乱れてくるし、広角レンズなのでポートレートは日の丸構図が吉。レンジファインダーならコサイン誤差も生じるので、なおさら日の丸構図に縛られることになる。
昔ながらの八百屋を撮影。四隅はぼんやりしているのがわかる。
水面の球ボケの崩壊、周辺減光、全体をベールのように覆うフレアとこのレンズの特徴を詰め込んだ1枚。中央の白鳥への視線誘導につながっていると思う。
右端の街頭のサジタルコマフレアに注目してほしい。やはりダブルガウスなんだと実感する。
夜景を撮るとこんな感じ。右下の街並みは幻想的で夢の中のよう。
夜の街。全面マルチコーティングで色乗りはすこぶる良い。この辺はオールドレンズとは異なるポイントだ。
これもただ撮っただけなのに、中央が浮き出るように強調された一枚。水滴のみずみずしさが、僕の好きなダブルガウスという感じ。
Leicaで映す、FUJIFILMとSONY。最後に絞り込んだ写真を。
絞ると球面収差は消え、非常にシャープな描写に。まさに一粒で2度美味しい。ただし四隅は絞ってもやや流れる。絞って被写界深度を稼いで、ノーファインダースナップなんてのも面白い。
今日のぐうの音
このApoqualia 2/28はMS-Opticsでもかなり売れ筋のレンズらしい。描写の癖は強いがF2でこの小ささはずるいので、それも頷ける。
- 広角レンズはあまり使わないけれど、持っておきたい
- よく写る広角レンズを既に持っているので、それと差別化できるレンズが欲しい
といった用途にApoqualia 2/28は最適だろう。宮崎氏による少量生産なので見つけた人はぜひチェックしてみてほしい。可能なら試写してからの購入がおすすめだ。
同型の販売が見つからなかったため、近いスペックのもののリンクを掲載する。
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